哀しみエンジン



「こんにちは。1年生?」



声の方を向くと、そこには素朴な容姿の先輩と思われる女性が立っていた。



「もしかして、ボランティアの仮入部に来てくれたの?」



その先輩は、目を輝かせて、俺に尋ねる。

偶然、俺が立ち止まっていたのは『ボランティアサークル』と黒いマジックペンで書かれた白い紙が、窓ガラスの内側から貼られている、その部屋の前だったらしい。

よっぽど、部員に困っているのか?

気の毒だとは思ったが、残念ながら、俺は包み隠せる程、器用じゃない。



「違います」



すっぱり言えば、みるみる内に先輩は赤面していく。



「あっ、あ、そっか。それは失礼しました……もしかして、どこか探してる?」

「はい。サッカー部の部室って、どこですか」



尋ねると、先輩は俺の後方、その少し先を指差す。



「向こうにあるB棟の、1階の左から2つ目の部屋だよ」


サークルに入ってまで、自分の為にはならないであろう、ボランティアを自発的にするくらいだから、親切にお節介を焼いてくれるのか。

人にさほど執着しない俺には、彼女が異世界の人間のように思えた。

そして、会話の終始、柔らかい表情が印象的だった。

とりあえず、お礼を言ったとき、俺たちの横をある人物が、通過していく。



「あ、服部くん」



先輩が、その人物に声を掛けた。

その瞬間、思わず彼女の表情、仕草から目が離せなくなっていた。

先程まで、柔らかかっただけの表情が少し強張り、ただならぬ感情を含んでいる。

まさに恋をする、それだ。

気付いていた「最初」から。

呼び止められた男子生徒が振り返る。



「ああ、清水。お疲れ」

「お疲れ様。あの、この子、新入生でサッカー部に行きたいんだって」


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