政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
 でもその後、連れていかれたところは秘書課の部屋ではなかった。

 役員室が並ぶ廊下を進み、角を曲がり、突き当たりで梨花さんが立ち止まる。
 そこから先は専務室へ入る扉があるだけだ。

 壁際にカウンターデスクがあった。

 梨花さんはネイルが施された形のよい爪で、コツコツとカウンターデスクを叩く。

「さぁ、ここよ。これからここが、あなたの席」

「は、はい?」

「仕事については課長が説明してくれると思うわ。私は案内するよう言われているだけなの。じゃ、頑張って」

 軽い微笑みだけを残して、梨花さんは行ってしまった。

(ここが、私の席?)

 カウンターデスクには袖机が両脇にひとつずつ付いている。デスクの上にはノートパソコンと電話が一台。

 とりあえずバッグをデスクの上に置いて、向かい側の大きな窓ガラス際に立った。

 外の景色がよく見える。

 方角が違うので西園寺ビルは見えないけれど、気晴らしにはなりそうだ。

 でも本当にそれだけでなにもない。
 廊下なのだから当然だけど。
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