政略夫婦の愛滾る情夜~冷徹御曹司は独占欲に火を灯す~
「課長は休み、他のみんなはそれぞれ社内を飛び回っている」

「ふぅーん、そうなんだ」

「それ、どうしたんだ。血が出てる」

「え? 絆創膏? 紙でちょっと切っただけよ」

「大丈夫か?」

「大丈夫よ、舐めときゃ治るくらいだもの」

「なんだか楽しそうだな」

「そう?」

 何しろ嘘のように状況が変わった。うれしさがにじみ出てしまっているらしく、今朝も給湯室で秘書課の先輩に同じことを言われたばかりだ。

 先輩には誤魔化したけれど、相談にのってもらっていた加郷には報告する義務がある。

「実はね、普通に仕事を頼まれるようになったの」と告白した。

 加郷は怪訝そうな顔をする。

「何があったんだ? 何もないのに急には変わらないだろう」

「ん? うーん……」

 コーヒーを叱られて泣いた事件は、加郷にもちょっと言いづらい。

「宗方さんが心配してくれて専務に交渉してくれたの」

「ふぅーん。で? そのブレスレットは?」

「えっ」

 そ、そこに気づくって。加郷、鋭すぎでしょ。

『はずすなよ』
 須王専務の低く通る声が耳の奥で蘇る。

 胸の疼きと動揺が加郷に気づかれないように、精一杯そしらぬ顔を装った。

「これは、うん。ちょっとね。お祝いに頂いたのよ」
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