乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!
カポーンと、ししおどしが鳴り響く。
花鯉が優雅に泳ぐ池を見下ろす位置にある備え付けベンチに、学生服姿の葵が立つ。その後ろに黒紋付きの袴姿の詠介と絃乃が続いた。
場所は、洛北にある老舗の料亭。
結納のための両家の顔合わせが終わり、あとは若い者でごゆっくりという段になったところで席を外したのだ。そこに遅れて葵も便乗してきた。
庭を散策中に葵に呼びかけられ、場所を移したものの、言い出した本人は口を噤んだままだ。いつもより重量のある晴れ着を捌きながら、絃乃は内心ため息をつく。
(話って何かしら……?)
葵の視線が自分の着物にあるのに気づき、着物を見下ろす。
冬の花が織り込まれた、正絹の振り袖姿だ。萌葱色の布には白椿が咲き誇り、白い帯には金銀の刺繍で精緻な模様がされている。
「……詠介兄さん」
「はい」
詠介が返事をすると、逡巡するように迷っていた視線がぶつかる。
「姉さんは、ぼうっとしているように見えて、猪突猛進なところもあります。自分のことに頓着しない、だらけたところも。欠点ばかりが多い姉が嫁いで、この先、迷惑をかける予感しかありません」
「ちょっ、ちょっと……何を言い出すの?」
結納も済ませたばかりだというのに。
あたふたする絃乃に、詠介は肩をそっと抱いて安心させる。
「葵くん。君の心配もわかりますが、おそらく問題ないと思います。僕も彼女に見放されないように努力していくつもりですし」
「逆かもしれませんよ。一緒になってから思っていたのと違うことに気づいて、愛想を尽くすことになるかもしれません」
「大丈夫です。ありのままの絃乃さんを受け入れる心づもりならできています」
真摯な声に、表情を硬くしていた葵がふっと力を抜く。
どうやら、弟の揺さぶり攻撃はすべて撃墜したらしい。詠介のほうが一枚も二枚も上手だったようだ。
葵は背中を垂直に折り曲げ、頭を垂れた。
「詠介兄さん。……姉さんをよろしくお願いします」
「はい。責任を持って幸せにします」
見ているだけしかできなかった絃乃は、ひとまずの落としどころがついたことで、ハラハラしていた心を安堵させた。
詠介は大人の余裕からか、気さくに葵に笑いかける。
「ですが、本当に驚きましたよ。気持ちに気づかれていただけではなく、婚約の話まで持ってきてくれるなんて」
「……俺なりの恩返しです」
「ありがとう。これ以上にない恩返しですよ」
詠介が心のこもった声で返せば、葵は照れたように頬をかく。
「俺はここで失礼します。引っ越しの荷造りもありますから」
「そうですね。君は実家に戻るんでしたね」
詠介が寂しげに言うと、葵は視線を斜めにずらし、自嘲気味に言う。
「皆さんにも事情を話さなければなりません。身分を偽っていたから、何かしらお咎めがあるかもしれませんが」
花鯉が優雅に泳ぐ池を見下ろす位置にある備え付けベンチに、学生服姿の葵が立つ。その後ろに黒紋付きの袴姿の詠介と絃乃が続いた。
場所は、洛北にある老舗の料亭。
結納のための両家の顔合わせが終わり、あとは若い者でごゆっくりという段になったところで席を外したのだ。そこに遅れて葵も便乗してきた。
庭を散策中に葵に呼びかけられ、場所を移したものの、言い出した本人は口を噤んだままだ。いつもより重量のある晴れ着を捌きながら、絃乃は内心ため息をつく。
(話って何かしら……?)
葵の視線が自分の着物にあるのに気づき、着物を見下ろす。
冬の花が織り込まれた、正絹の振り袖姿だ。萌葱色の布には白椿が咲き誇り、白い帯には金銀の刺繍で精緻な模様がされている。
「……詠介兄さん」
「はい」
詠介が返事をすると、逡巡するように迷っていた視線がぶつかる。
「姉さんは、ぼうっとしているように見えて、猪突猛進なところもあります。自分のことに頓着しない、だらけたところも。欠点ばかりが多い姉が嫁いで、この先、迷惑をかける予感しかありません」
「ちょっ、ちょっと……何を言い出すの?」
結納も済ませたばかりだというのに。
あたふたする絃乃に、詠介は肩をそっと抱いて安心させる。
「葵くん。君の心配もわかりますが、おそらく問題ないと思います。僕も彼女に見放されないように努力していくつもりですし」
「逆かもしれませんよ。一緒になってから思っていたのと違うことに気づいて、愛想を尽くすことになるかもしれません」
「大丈夫です。ありのままの絃乃さんを受け入れる心づもりならできています」
真摯な声に、表情を硬くしていた葵がふっと力を抜く。
どうやら、弟の揺さぶり攻撃はすべて撃墜したらしい。詠介のほうが一枚も二枚も上手だったようだ。
葵は背中を垂直に折り曲げ、頭を垂れた。
「詠介兄さん。……姉さんをよろしくお願いします」
「はい。責任を持って幸せにします」
見ているだけしかできなかった絃乃は、ひとまずの落としどころがついたことで、ハラハラしていた心を安堵させた。
詠介は大人の余裕からか、気さくに葵に笑いかける。
「ですが、本当に驚きましたよ。気持ちに気づかれていただけではなく、婚約の話まで持ってきてくれるなんて」
「……俺なりの恩返しです」
「ありがとう。これ以上にない恩返しですよ」
詠介が心のこもった声で返せば、葵は照れたように頬をかく。
「俺はここで失礼します。引っ越しの荷造りもありますから」
「そうですね。君は実家に戻るんでしたね」
詠介が寂しげに言うと、葵は視線を斜めにずらし、自嘲気味に言う。
「皆さんにも事情を話さなければなりません。身分を偽っていたから、何かしらお咎めがあるかもしれませんが」