冷徹弁護士は奥手な彼女を甘く激しく愛し倒す
エレベーターで乗り合わせた出穂は、八月に引っ越しの挨拶をしにきたときとはまるで別人だった。
顔色も声の覇気も、体の細さも、眼差しの強さも。なにもかもが俺の知っている彼女ではなくなっていて静かに驚く。
たった二ヵ月と少しで人間がこうも変わるものだなんて知らなかった。
驚くと同時にひどく不安になった。
原因は知らないが、このまま放っておいたら取り返しのつかない結果になる気がして。
今は十月半ばで、この時期にしては今日は暖かい。
エレベーター内に空調がついているかは微妙だったが、体感的には寒くも暑くもなかった。
それなのに、俺と同じようにワイシャツとスーツのジャケットを着ている出穂の体が震えていることに気付く。
男女の違いはあったとしても、震えるほどの寒さはどう考えてもない。
それでも気付いた以上は放っておくわけにもいかず、自分の着ていたジャケットを脱ぎ差し出す。
『あの、大丈夫ですから』
最初は遠慮した出穂も、『好意は素直に受け取れ』と睨んだら遠慮がちに受け取り羽織っていた。
『すみません……ありがとうございます』
『体調が悪いのか? さっきも言ったが、顔色が悪い。それに寒いんだろ?』
目を伏せたままの出穂は、力なく笑った。