飴色溺愛婚 ~大胆不敵な御曹司は訳ありお嬢様に愛を教え込む~
契約結婚……で特別な優しさに触れて


「あの、そんなに急いでいったいどこに行くんですか? 私あまり外には出たことが無くて……」

 準備が終わってリビングに戻った私の手を握ると、(かい)さんはやや強引に家の外に連れ出した。さっきの事でまだ彼は怒っているのか、少しもこちらを見ようとはしてくれない。
 いつも櫂さんが私に向けてくれるのは笑顔ばかりだったので、それに甘えすぎていたのかもしれないわ。

 それでも彼に少しそっけない態度を取られるだけで、こんなにも不安な気持ちになってしまう。今までどんなに辛くても耐えてきて、自分はそこそこ強い人間だったと思っていたのに……
 しょんぼりとして櫂さんに手を引かれて歩いていると、不意に彼の歩みが止まる。

「……どうしました、櫂さん?」

「ああ、すまない。今はどうしても千夏(ちなつ)と二人きりではいたくなくて……」

 振り返った櫂さんは少し困ったような表情で私を見ると、気まずそうにそう言った。その瞬間「ガーン」と頭を強く何かで殴られたような気分になる。
 まさか結婚初日で夫が妻になった私と、二人きりでいられないと言ってくるなんて……あんまりなのではないかと。
 ショックで頭がグラグラしてくる、何か答えなければと思うけれどうまく言葉が見つからない。

「そ、そうですか。すみません、全然気がつかなくて……」

 二人での食事時間が心地良いと思っていたのは自分だけだったの? あの時間を櫂さんも楽しんでいるのだと疑いもしなかった。
 嫌味でない笑顔と、穏やかな会話。そして温かな美味しいオムライス。それは全部私だけが喜んでいたの……?


< 49 / 207 >

この作品をシェア

pagetop