暁のオイディプス
 「亡き姉の最期の望みを叶えるためには、若殿には是が非でも無事に家督を継いでいただかなければなりません。そのためには我らが稲葉家、一族を挙げて後押しいたします」


 母の実家である稲葉家の支えは実に頼もしく、稲葉一族の後援なしには私の地位は保てないかもしれない。


 「一つだけ申しておきますが、若殿は明智の光秀と仲良くされていますが……。彼も所詮は明智一族。いずれ微妙な間柄になるかもしれませんので、その点はお気を付けください」


 「光秀が? あいつは頭も切れるし、実に役に立つ」


 「光秀の父と小見の方は兄妹。そして光秀は帰蝶様はいとこ同士です。いくら親しくしていても、いざという時は血の繋がりが物を言うことも多いです。それをゆめゆめお忘れなく」


 確かに明智家は、美濃守護土岐家の一族で。


 光秀は正室・小見の方の甥にあたり、帰蝶とはいとこの間柄。


 そんな背景はあるものの、幼いころから共に学び、武芸にも励んできた。


 いくら一族が違うとはいっても、私に親身に尽くしてくれる光秀がいずれ私を裏切る日が来る?


 想像がつかなかった。
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