暁のオイディプス
 ……そうこうするうちに、土岐家の屋敷に着いたのだけど、


 「お出かけでしたか」


 「申し訳ありません。御屋形様は本日は朝から鷹狩りにお出かけになられ、まだ戻らないのです」


 対応した土岐家の家老に謝られた。


 もうすぐ帰宅されるならば待とうとも思ったけれど、もうじき日が沈んでしまうし、暗くなってからの移動は避けたい。


 借りていた本を家老に預け、そのまま城に戻ろうとしたところ、


 「少しお待ちいただけますか。大殿に提出を求められていた書類がありますので、そちらを預かっていただいてもよろしいでしょうか」


 父上に渡さなければならない書類があるというので、それを渡してもらうために屋敷に入り、軒先で少し待っていた。


 軒先から庭園を見渡す。


 さすが風流に秀でた御屋形様の意向が行き届いているようで、まるで京の公家の屋敷を思わせるような凝った造り。


 それに引き換え父上は、余計なものは省くという実利主義が徹底していて、稲葉山城の庭園は整然とはしているものの味気ないものだ。


 「……ん?」


 夕刻に染まる庭園の美しさを堪能しながら、歩いていた時だった。


 どこかから楽器の音色が聞こえてきた。
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