ロミオは、愛を奏でる。
タクシーの中で
リョーちゃんの匂いに包まれた
リョーちゃんに抱きしめてもらってるみたいで
顔が火照った
ドキドキ…
ドキドキ…
化粧ポーチから鏡を出して
紅く塗ったリップを拭った
やっぱり
似合わないね
リップもドレスも
マスカラが滲まないように
目から溢れるものを我慢した
「イト、寒かった?
リョーちゃんからジャケット借りたの?」
「うん、ちょっと冷房が効きすぎてた
ママは着物だったから暑かったでしょ」
「そーね…
イト、お酒飲んでないでしょうね?」
「飲んでないよ
アレはアルコール入ってないヤツ!」
「なんか目が赤いから…」
「ちょっと疲れただけ…
…
ねぇ、ママ
私、このドレス似合わなかったかな?」
「そんなことないと思うけど…
色もデザインも
ママは好きだけど…」
「うん、そーだよね…
…
珠莉ちゃん、ドレス似合ってたね」
「うん、素敵だったね
イトもいつか…」
「いい結婚式だったね
…
イト、ちょっと寝るね
着いたら起こして…」
目を閉じたら
目尻から滲んだ
リョーちゃんのジャケットを汚さないように
ママに気付かれないように
涙を手の甲で押さえた
リョーちゃん…
イトもいつか…
そんな日
来ないかも
いい結婚式だったよ
お兄ちゃん
ドレス似合ってたよ
珠莉ちゃん
リョーちゃんに見てほしくて
選んだイトのドレス
好きなものと
似合うものは違うもんね
ただイトに
このドレスが似合わなかっただけ
ちょっと背伸びしすぎた
リョーちゃんの隣に
イトはふさわしくない
それと同じことだよね
リョーちゃん