花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 花が凛の置かれた状況を簡単に説明する。
 すると、一堂の顔から笑みが消え真剣そのものになる。十三師として父の魂を見つけた時と同じような顔だ。
 そして、しばらくの間黙り込んだ。その時間はたぶん1分も満たなかったはずだが、花にはそれ以上に長く思えた。
 長いまつげがピクリと動き、上を向いた時に花と視線が合った。


 「………申し訳ございません。生きている人間に魂が宿る事は私も聞いたことがございません。お役に立てそうにありません。せっかく訪ねてきていただいたのに、すみません」


 一堂は畳に手をつけて深く深く頭を下げた。
 花は内心では深く残念がったけれど、なるべく笑顔を見せるようにして「そんなに謝らないでください」と、顔を上げるように促した。
 けれど、隣に堂々と座っていた凛が声を掛けた。


 「やはり、俺の体を燃やすしかないか?」
 「……それでは、凛様の魂が行き場を失います。そして体の消滅はこの世界では死を意味します。そのため、次はあなたが四十九日の奇という立場になってしまいます」
 「………」


 花は太ももの上に置いていた自分の手でスカートをギュッと握りしめた。
 第三者でしかも十三師である一堂に現状を伝えられると、一気に現実味がおびてきてしまう。
 雅が四十九日の奇が終わり成仏した後、凛までもが同じ道を辿っていってしまう。自分の守ってくれ人、信じてくれた人、認めてくれた人が目の前からいなくなってしまう。
 そんな未来が刻一刻と近づいている。背中に冷たいものを感じるほどの恐怖だった。



 「………四十九日の奇なんて……奇跡ですけど……ただただ辛いことですね」


 死。
 それが身近に続き、花は大きなダメージを負っているのだろう。つい、そんな弱音を吐いてしまった。隣には、死が間近に近づいている凛がいるといるのに。
 死だって恐怖だ。人間の最大の恐怖といってもいいかもしれない。けれど、花は大切な人がいなくなり、残されてしまう事がとても怖かった。
 また、独りになるのだ、と。
 

 「俺は死なないし、あいつは成仏させる。俺を勝手に殺そうとするな」
 「凛……」
 「凛様」



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