花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 が、突然隣の部屋からドンッという音が聞こえてた。花はその手を止めて、すぐに部屋へと向かった。
 すると、扉が少し空いており、そこから中の様子が伺えた。部屋の電気はつけられていなかったが、大きな窓から差し込む月明かりが、スポットライトのように凛を照らしていた。

 その凛の体が小刻みに震えていた。
 そして微かに彼の苦しそうな声も聞こえる。

 凛が泣いてる。

 それを理解した途端、花の足は自然と動いていた。ゆっくりと彼に近づき、花は優しく後ろから凛を抱きしめた。
 普段ならば男性に対して積極的な事が出来るはずもなかった。けれど、その時は体が勝手に動いていたのだ。
 凛が泣いているから。独りで泣かないで。自分が泣いている時に、凛と雅が居てくれた。それがどれだけ心強かったかを知っているからこそ、一人で泣く孤独と寂しさがわかるのだ。


 急に抱きしめられた凛は驚いて体をビクッとさせた。

 「おまえ、何やってんだよ!?勝手に俺の部屋入って」
 「………凛の顔、見ないから」
 「何を………」
 「見ないから、一人で泣かないで。そんな寂しい事しないで」
 「それで何でお前が泣いてるんだよ」
 「泣いてないもん」
 「はいはい」



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