花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 男に震えている体を身まれないように、ギュッとクマを抱きしめて背を向けて立ちさろう。
 が、腕に温かいモノが触れられる。それがあの男だとわかり手を払ってしまいたかったが、予想以上に体力を消耗していたのだろう。かくんッと足の力が抜けて体が落ちそうになる。それを支えたのはもちろんクマのぬいぐるみでもない、黒髪の男だ。


 「なんですか?!は、離してください………!」
 「あの…………その、クマのぬいぐるみ、俺が綺麗にします。僕がそれを作ったので」
 「え……」
 「俺はぬいぐるみ店『花浜匙』の店長なんだ」


 人の人生を変える出会いというのは、その時はわからない。
 後から「あれが分岐点だったんだな」「運命だったんだ」と実感するのだ。だから、本当はどこから繋がっていた運命なのか、その時が運命なのか、わからない。分岐点とは人間が勝手に決めているものなのだろう。


 けれど、この日、この時に花とその男は出会った。
 それはまぎれもない真実。
 運命の日になるのか、ならないのか。
 その時の花とその男にはわかるはずもなかった。








 
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