花筏に沈む恋とぬいぐるみ




 「凛と俺は同級生でね。凛はこんな顔だけど、可愛いものが好きだった。自分が着るものとかではなく、可愛いものを作るのが好き、が正確かな。よく『今日電車の中で見かけた人の服がよかった』って学校でスケッチしていたよ」
 

 雅は自分の顔を指さしながらクスクスと笑っている。


 「俺は両親を早くに亡くしていて、この店の店主だった祖父が育ててくれたからテディベアとか好きになってて。自然と跡を継ぎたいなって思ってた。でも、男がテディベアが好きなんて、なかなか言えないだろう。それなのに、凛は堂々としててね。そんな凛に会えたのが衝撃的だったし、嬉しかったんだ」
 「うん」
 「それから自然に仲良くなってね。一緒にテディベアを作るようになった。俺はテディベアを作って、凛がその洋服を作る。そんな役割が出来た。けど、やっぱりなかなかうまくいかなくてね。祖父に見せても「やり直し」って一言言われて終わりだった。何回か作り上げて、「まぁまぁだな」って言われたのが、クマ様だったんだ」
 「じゃあ、凛さんと雅さんにとって思い出のテディベアなんだね………」
 「そうだね。いつも工房に置いて、眺めていたよ。この時の気持ちを忘れないようにしようって話しながらね」


 2人で意気投合しテディベアを作り上げた。
 プロである雅の祖父に少しでも認められた時はきっと感動したはずだ。その時の2人の姿を想像するだけでも笑みが零れてしまう。

 「それが中学の時かな。その後、凛は大学に進学して俺は高校まで通った後にこの店を継いだんだ。祖父も亡くなってしまったからね。大学に在学中もこの工房で洋服作りをしてくれて、卒業後は花浜匙で本格的に働く事になったんだ」
 「そんな、事があったんだね。2人でテディベア作り、楽しそう……」
 「あぁ。とても楽しかったよ。雑誌に取り上げてもらう事もあって売れ始めたからね。忙しくなりながらも充実した時間だった」




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