願いだらけの私から君へ
 でも、一番辛かったのはこれじゃなかった。
 一番は実輝のことだった。
 いつかこうやって自分に戻ってくることはわかっていた。 
 なのに怖かった。
 図工で版画をしているときだった。
 インクをつけようとインク置き場に行くと、湧人と夕海がいた。
 怖かった。多分夕海が一番怒っているだろう。
 私が近くに行くと、前までアニメの話をしていたのに急に話を変えた。
 「ていうかさぁ〜。あいつマジでなんなのさぁ〜。あ、泣いてないほうね」
 『泣いてない』でわかった。泣いたのは実輝。泣いてないのは多分私だろう。でも、次の言葉でしっかりわかる。
 「泣いちゃったやつの好きな人取りやがって」
 「だよなぁ〜。俺もあいつ悪いと思う」
 「あはは。だよねww」
 「うんw」
 「泣いちゃったやつにつきまとって、情報ゲットしようとしたんだよ?実輝のこと落とし入れようとした…」
 あ、やっぱ私だ。そんなつもりなかったのに。最後に名前言っちゃってるし…。
 私の名前は出ていない。でも、これは絶対必ず私だ。
 すぐ隣にいる人に悪口を言われたのは初めてかもしれない。
 インクを塗っていると万留も来てしまった…。もうこれ以上聞きたくなくて逃げるように席に戻るとさっきいた場所からは、笑い声が聞こえた。
< 50 / 89 >

この作品をシェア

pagetop