販売員だって恋します
──欲しい、彼女が。
何でも手に入る立場だ。それでも誰かを手に入れたい、とこれほど強く願ったことはなかった。

由佳は二人きりで出かけることにも了承はしてくれている。
全く脈がない、ということはないだろう、と神崎は考えていた。

焦らない。
けれど、気持ちを抑え込むつもりは全くなかった。

そんな気持ちのまま神崎は由佳を伴って、パーティ会場に向かった。

外は天気が良く、芝生の青さが目に沁みるようだ。
芝のグリーンには、白系の色は映える。

自分もそう思っているが、恐らくは、由佳もそう思ってのオフホワイトのドレスの選択なのだろう。

普段は女性など連れ歩かない、神崎である。
今日は清楚な美人と一緒にいる、と昔からの馴染みのお客様から声をかけられた。

「どなたなの?今日は素敵な方と一緒なのね?」
「『くすだ』のお嬢様ですよ。」
ああ、道理で……という空気。

ホテルの馴染みのお客様であれば、『くすだ』を知っていて当然だ。
その敷居の高さも。
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