販売員だって恋します
優しげな顔立ち。
綺麗な立ち姿と、仕草。
入り口ですっと座り、両手をつく。

「お久しぶりです。」
中の人物たちの動揺には関わりないような、静かな動作だった。

「お前……」
「はい。もう、こちらの敷居は跨がないつもりで、家を出ました。けれど、『くすだ』の存続も、由佳ちゃんのこともかかっている、と聞いたので。」

「存続……。」
「どういうことですか?」

由佳も知らない話だ。
父はため息をついた。
「絋まで。神崎さん、今日のところはご勘弁頂けないだろうか。」

「いえ。神崎さんの前でお話しましょう。今、ある企画のことについても、僕としてはきちんと決着をつけておきたいので。」
絋は静かな顔で、神崎をまっすぐ見る。

「決まった話ではないですよ。」
「決められた後では遅いから、こうして参上したんです。」

一瞬、絋と、神崎の間に、火花のようなものが見えた気がした。

「一体、何が起きているんですか?」
由佳の知らないところで、何かが複雑に絡まっている感じがする。
< 160 / 267 >

この作品をシェア

pagetop