販売員だって恋します
近くに奏はいたものの、奏は由佳に気を使って「行ってるね。」と声を掛け、その場に由佳を置いていく。

「珍しいですね。」
そう声をかけて、由佳は大藤に歩み寄る。

普段、秘書室勤務の大藤が営業場に姿を見せることは、確かに珍しいから。

「お客様をお見送りしていたんですよ。今日は社長が不在なので、代わりに対応していましたから。」
「そうなんですね。」

澄ました顔で淡々とそんな話をしているけれど、大藤の隙のないスーツ姿、というのはやはり目立つようで、通りすがりの販売員たちが、ちらちらと見てゆく。

「ええ。ああ、楠田さん、少し確認したい事があるんですよ。」
周りに聞こえるように、そう言って、ストックルームのいちばん奥に、大藤は由佳を連れて行った。

「ここ……」
「ええ、意外と穴場で。」

ダンボールが、重なっているので、いちばん奥は人目につかないのだ。

「そうやって、悪い事していた訳ですね?」
「してませんから。立ち話をしていると、目立って仕方ないですからね。」
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