販売員だって恋します
しかし軽く目を見開いた大藤は、口元に笑みを浮かべて、
「ああ、すみませんでした。もう、いいですよ。」
と言ったのだ。

「え?何か用事だったんじゃないですか?」
「はい。けど、あなたはこれからお出かけされるんでしょう?」

由佳は自分の姿を見る。
今日は、神崎に食事に誘われていた。

「でも、わざわざここまで来るって、何かあったんですよね?」
「あなたは出かけるところでしょう?」
柔らかく、諭すように言われる。

「でも……」
「大丈夫。気にしなくていいから。楽しんでいらっしゃい。」

くるりと背を向けられて、誰か別の人に声をかけて、その人と行くつもりなんだ……そう思うと、その背中を追いかけた由佳は、大藤のスーツの腕をきゅっと掴む。

「由佳……?どうしたんです?」
「だって、困ったんじゃないんですか?」
「まあ……でも、なんとかしますよ。」
口元に緩く浮かぶ、微笑み。

「聞かせてください。気になるので。」
「たいしたことではないです。今度、上司が主催の会食があるのですが、事前に下見を兼ねてお店を見ておきたくて。付き合ってくださる方を探してたんです。」
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