販売員だって恋します
それまではチャラチャラしていた自覚はあるし、目標も正直なかったけれど、せめて名に恥じない程度には、自分の家のことくらい知っておきたい。
そう思った。

その後大学を卒業し、広告代理店に入社した。自社に入社したのは数年前だ。
そして、今の部署にいる。

今の絋はどうなんだろう?
そう思っただけ……だったのだが。

「あの子はいません。」
とても素っ気なくそう言われて、神崎は驚いた。

いません……?

しかし深く追及するのは不粋だし、この雰囲気では聞き出すのは難しそうだ。
「お嬢さんも、いらっしゃいましたよね。」
女の子については、子供の頃に一緒に遊んだ記憶しかない。

たしかお店に出すようなことは、していないはずだ。
娘についても近況を淡々を話してくれたが、絋のことよりは若干、優しい雰囲気だ。

とても、可愛がっているのだろうと感じた。
「久しぶりにお会いしたいですね。」

ちょっとしたお世辞のつもりでもあったのだが、そこで運命的とも言える出会いがあると、思わなかったのだ。

部屋の前で足を止めた彼女が、すっと膝を折り、綺麗に頭を下げたのを見て、靖幸はその仕草に惹かれた。
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