販売員だって恋します
食事の時に、繊細にカトラリーを扱っていたあの指が、由佳の身体をたどっているのかと思うと、それだけで身体の力が抜けそうなのだ。

「……ん……。」
多分大藤を見つめ返す瞳は、潤んでいるだろうと思う。
その表情を、大藤は満足そうに見返した。

「可愛い。けど、由佳……手を出して?」
気持ちよくて、先程から頭がぼうっとしている由佳は、言われたとおりに素直に手を出す。

「いい子ですね。両方ですよ。」
両手を差し出した由佳に、にこっと笑った大藤は、シュッとネクタイを首から引き抜いて、それを由佳の手首に巻いてしまう。

「え……、や……」
「大丈夫。痛くはしませんから。ただ、口元を抑えるような……悪い手には、お仕置きです。」

口ではイヤ、と言ったけれど柔らかいその布は、由佳を傷つけるようなものではなく、けれども自分で身動きが出来ないその状況に……鼓動が早くなる。

「あ、大藤、さんっ……」
「違うでしょう?由佳、俺の名前呼んで。」
「あ……久信さん……?」

そういえば、いつの間にか呼び捨てにされるようになっていた。
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