販売員だって恋します
しっかりしているの言葉の通り、翔馬がわがままを言ったりゴネたりするところを、大藤は見たことがなかった。

それはそれで可愛げがない、と思うこともあったが、冷静に考えれば大藤自身は子供は苦手だ。
だから、翔馬がこれくらい落ち着きのある子で良かったのだ。

送迎していたのは中学生までで、高校からは翔馬は自分で登校するようになったので、大藤はほぼ、翔馬の父である成田勇に付くことが多くなった。

成田勇は、大藤には会社での席も用意してくれて、家族がいるわけでもない大藤にはとてもありがたかった。

この10年ほどを役員付きの秘書と、個人秘書とで兼任しながら仕事をさせてもらっている。

家庭など持つつもりはない。
恋人も、いらない。
家族より恋人より、成田家が大事なのだ。

成田家に入ってからは、前任の秘書にありとあらゆることを叩き込まれた。
立ち方、歩き方から再教育を受けたのである。
それは大変に厳しいものだった。

その人は先代から成田家に仕えていた、と豪語するだけあって、家のことは隅から隅まで把握していた。
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