恋に気づくその前に
「ちゃんと前見て歩けよ」

隣を歩く同じクラスの男の子、山岸祐樹君から、優しい声が聞こえる。

「え? 何っ――」

隣を向いて、聞き返そうとする。

「お前!」

彼の焦った声が聞こえたと思うと、それと同時に頭に痛みを感じる。

「あ……うう」

「はあ……お前って昔からドジだよな」

頭を押さえてその場にうずくまる。

「だって仕方ないじゃん……山岸君が、話しかけてきたんだもん」

うずくまったまま、口を尖らせて、精いっぱいのぶりっ子をする。

「あ、ああ……わ、悪かったな」

そんな私を見て、彼は少しだけ赤くなりながらも、手を伸ばす。
目線を少しそらす姿は、男の子なのに、何だか可愛かった。

「あ、ありがと」

延ばされた手に、自分の手をそっと近づける。
重なり合った彼の手は、私の手よりも大きくて、心地が良い。

彼はそのまま私を強い力で引っ張って、立たせてくれる。

「まあ、怪我は無いみたいでよかったな」 

そう言うと共に彼は私と繋いでいた手を放す。

「……ま、待って」

引きはがされた温もりが恋しくて、つい、呼び止めてしまう。

「待ってって、何をだよ?」

「えっと、もう少し、もう少しだけ……」

理性なんかが働く前に、言葉が産まれる。
急激に跳ね上がった鼓動は止まることはなく、顔が赤くなっている感覚を味わう。
言ってはいけないと分かっているのに、喉まで出かかってしまった、その言葉は……

「あ、祐樹君」

親友の声で、止まった。

彼女は、私の一番大切な友達で……

「お、結衣、いたのかよ」

私の好きな人の、彼女だ。
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