涙の涸れる日
佐伯煌亮

幸せにしたい人

 紗耶が離婚したと聞いて、無理矢理封じ込めて来た気持ちが溢れ出すのを止められなくなった。

 今、行動を起こさないと、また後悔する事になる。 
 二度と大切な人を失わないように……。


 でも誰に相談すれば良いだろう……。
 考えに考えて……。

 一番歳の近い三男の規智(のりとも)兄さんに話を聞いてもらおうと决めた。

 早く仕事を終わらせた夜、規智兄さんに電話を掛けた。

「煌亮か? どうした?」

「相談に乗ってもらいたい事があるんだ」

「仕事は?」

「今、終わった」

「俺も、もうすぐ終わるから、たまには一緒に飯でも行くか?」

「うん。何処ヘ行けば良いかな?」

「そうだな……。和食にするか?」

「いいね」

「信濃にするか。電話を入れておくから」

「分かった。今から行ってるよ」

「あぁ、後でな」

 信濃は料亭ほど敷居が高くない。でも落ち着いて話も出来る割烹だ。

「こんばんは」

「佐伯のお坊ちゃん。ようこそおいでくださいました」

「女将さん、お坊ちゃんは止めてくれないかな」

「そうでしたね。立派になられて。小さな頃から存じておりますから、つい」
女将は上品に笑った。

「規智兄さんから部屋をお願いしたと思いますが」

「はい。承っておりますよ。こちらにどうぞ」

 ここはテーブル席もあるが、和室でゆっくり食事が出来る。

 子供の頃から度々、家族で食事に来た馴染みの店だ。


< 128 / 152 >

この作品をシェア

pagetop