涙の涸れる日
永遠に

紗耶を守る

 十月に入った。

 プロポーズしてから、約一か月が経っていた。
 まだはっきり返事をもらった訳じゃないけれど……。

 夜も仕事が早く終われば紗耶と待ち合わせて食事もして、休日には二人でドライブもしている。

 きょうも少し遠出をして海を見ながら二人で歩いている。やっと自然に手を繋げるようになっていた。

「紗耶。一緒にイギリスに行かないか? いや、付いて来て欲しい」

「えっ? イギリス? 煌亮イギリスに行くの?」

「あぁ。会社を辞めてイギリスで絵を描いて暮らそうと思ってる」

「絵を?」

「仕事をしながらも、ずっと描いてたんだ。オランダとルクセンブルグの絵画の公募に応募して賞をもらった。先週その知らせが来た」

「えっ? 入賞したの? 凄いじゃない」

「まだまだ大した事ないよ。でもこれで画家として生きて行く覚悟が出来た」

「煌亮が絵を描いてたなんて知らなかった」

「高校生の時に留学してホームステイさせてもらってた素敵な家族が居てね。広い敷地にニ軒の家が建っていた。一軒はステイ先のご両親が住んでいた。でも二年前にお二人共亡くなってね。僕に住んで欲しいって言ってくれてる」

「そうなの……」

「出張の度に寄らせてもらってたんだ。とても気持ちの優しい良い人達だよ」

「煌亮、入社してから出張ばかりだったよね」

「そうだな。最初の二年くらいは殆ど海外だったな」

「イギリス……」

「ロンドンの郊外だよ。近くに古城もある素敵な所だ」

「そうなんだ……」

「ロンドンの美術館にはフェルメールの絵画もあるよ。紗耶と一緒に見に行きたいんだ」

「フェルメールで釣らないでよ」

「この際、使える物は何でも使うよ。紗耶を手に入れる為ならね」

「煌亮って意外と策士だったんだ……」

「紗耶と二人で生きていきたい。生涯一緒に居たいと思ってる」

「煌亮の気持ちは嬉しいよ」

「僕は紗耶を悲しませるような事は絶対にしない。約束するよ。イギリスで幸せに暮らそう」

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