涙の涸れる日
 十一月に入った。

 きょう婚姻届を紗耶と二人で区役所に提出に行く。
 証人の欄は二人の父親に書いてもらった。


 担当の方が
「確かに受け付けました。おめでとうございます」
と微笑んでくれた。


「きょうから佐伯紗耶だよ」

「うん。嬉しいよ。ありがとう」

「嬉しくて、ありがとうって言いたいのは僕の方だよ」

「煌亮……」



 仕事は十月いっぱいで引き継ぎも済ませて会社には辞表を出した。

 長期滞在ビザも既に取得している。
 十年間イギリスに住めば永住権も取得出来る。

 日本に戻らないと決めている訳ではないが、暫くはオランダとルクセンブルグに近い場所に住む必要があると考えているから。 


 イギリス行きに向けて必要な荷物も整理を始めている。

 紗耶も洋服や身の回りの持って行く物を整えるのが大変そうだ。

 
 入籍しても紗耶にはイギリスに行く迄は今まで通り実家に居てもらうつもりでいる。

 年に一度は帰国するけれども、度々戻る訳にはいかない。

 せめて渡英する迄は家族との時間をゆっくり過ごして欲しいと思っている。

 イギリスに着けば紗耶と二人だけの生活が待っているから。

 それまでは短期間ではあるが親孝行の真似事でもさせてあげたい。


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