セピア色のMEMORIAL SAVER(ノベマ移行完了)



 今年、卒業10年を期に行われた高校の同窓会に、陽人さんも特別ゲストとして招かれたそうだ。そこに陽人さんは、元クラスメイトたちに現状を伏せて結花さんを連れていったという。

『小島先生、変わりませんね!?』

『みんなすっかり大人になりましたね』

『先生、一緒に来られたの誰なんですか』

『奥さんですか? 年下過ぎませんか?』

『先生には美人すぎます!』

 陽人さんは少し離れていた結花さんと、すでに気付いている何人かに人差し指を口に当て目配せをしててから紹介したそうだ。

『2年2組のクラス委員を忘れたとは言いませんよ? みなさんと教室に一緒にいたんですから。このとおり、しっかりと元気に毎日を送っています。昔より美人になったでしょう? 結花(・・)、こっちへおいで?』

『えぇ! あの原田? 嘘だぁ!?』

『イメチェンしすぎだろ!!』


「酷かったもんだ。結花も笑ってたけどな。強くなったよ」

 そこでの騒ぎはその場にいなくても想像がつく。今の生活などの質問攻めになっていた結花さんを、陽人さんは自分の妻であること、すでに子どもを授かった母親であることも「小島家のご主人」として発表したそう。

 そこでの驚きの声は悲鳴に近かったという。花菜の卒業式の日にも同じような光景を経験した自分にも想像がつく。

 花菜は高校2年・3年生という2年間を使って、「目立たない生徒」から「クラスのヒロイン」といわれるまで変化したけれど、結花さんはそうではなかったはず。

「当時の結花は、教室でも本当に目立たない生徒だった。でも、結果的にそういう子の方があとで伸びると分かったんだけどね」

 学校の教員を辞め、塾の講師となって、個別の指導をするようになると、学校では見えてこなかったことがたくさんあると知ったそうだ。

「結花や花菜ちゃんみたいに、学校では目立たない子が、ちょっとしたきっかけで大きく伸びる。どれか1つの教科でもスイッチが入れば、あとは手をかけなくても自分で伸びていける。花菜ちゃんもよく頑張ったと聞いたよ」

 俺が花菜を引き取る、いや彼女と歩いていくことを告げたとき、彼女は進学はしないと公言していた。

 しかし、珠実園に入所して暫く時間が経ち落ち着いてくると、食品やアレルギーについての勉強がしたいと話すようになった。

 最初は結花さんが高校卒業という資格を持っているから、自分も高卒でも構わないと言っていたけれど、そんな結花さんも背中を押してくれて、短大に進学させた。

 結果的にそれを活かして今の花菜がいる。仕事もやりたかったことを出来るので満足しているという。

「啓太君は最初から花菜ちゃんとの信頼感があったからなぁ。話を聞いていてそこは羨ましいと思ったけどね」

 豪快に笑う陽人さんだけど、事情を知らない他人からみればどちらも担当していた生徒と恋仲となり、結果的に結婚までしてしまったという不良教師だ。


 それにも関わらず、元生徒である二人の女性たちはそれを全く恥じていない。顔を合わせれば仲のいい姉妹のように笑っていてくれる。

 自分たちの過去について、彼女たちだから救われているという陽人さんの言葉には同意するしかなかった。


「さてと、呼びに行くか。帰って風呂に入ってから食事だな」

「いよいよですね」

 これから話すことを考えて、楽しみのような、それでいて不安も残る複雑な心境なのは同じ。

 店を出て、陽人さんと海岸へ続く階段を降りていった。

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