志岐さんと夏目くん



「……」



胸が、ドキドキと音を立てている。


……さっきの、どういう意味……?

私だから誘った。 って、言ってた……よね……?


どうして?

なんで夏目くんは私を?

……どうして、私を誘ったの?



「夏目くんって……」



……もしかして私のことを?

なんて身勝手な思いが出てくるけれど、すぐに首を横に振る。


そんなわけない。

あるわけがない。

夏目くんが私に特別な感情を抱いてるなんて……有り得ない。


きっとアレだ、恋人同士のフリをした仲だから、学園祭で暇してる私に同情したんだ。

そう、それだけ。

絶対にそれだけだ。



「……大丈夫。 ちゃんと、わかってる」



私と夏目くんはクラスメイト。

「彼女のフリ」をしたことはあったけど……今はもう違う。

ただのクラスメイトだ。

と、そう自分に言い聞かせる。






……その後。

平常心を取り戻した私は、小日向くんを連れ戻した夏目くんと ごくごく普通に顔を合わせ、普通に話を続けていった。

小日向くんと面白いことを言いながら笑う夏目くんを見て、私も笑う。


大丈夫。

いつも通りだ。

何も変わらない。



──……それからの数日間も、特別変わったことはなかった。

日中はただのクラスメイトとして過ごし、放課後は装飾班として淡々と作業をこなしていく。



そしていよいよ、学園祭の日がやって来た。





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