猫かぶりなカップル
神城の方を見たら、いつもみたいに余裕の表情。



「一ヶ月くらい。だよね?」



そう言ってあたしの方を笑顔で見てきた。



「う、うん…」



一ヶ月前って、あたしが神城の犬にされたときじゃん…。



そして、スズナちゃん達に祝福され、学食の人にも「すごいカップル誕生した」と騒がれ、その場は納まった。



放課後、「奏くんに会いに行く」と言って、校舎裏に呼び出す。



「さっきはありがと」

「本当にな」

「なんであんなこと言ったの? あたしの彼氏なんて…。あんたにメリットないじゃん」

「メリットならあるぞ」



一体なんの…?



今まで学校の王子だったはずの神城に突然校内のアイドル(私)の彼女できるとか結構まずいんじゃないの?



「まず、『王子』とか言って『神城くんは誰のものでもない!』って騒がれるのが収まる」

「ああ…」

「そうやって騒ぐ割に告白してくるやつが後を絶たないからめんどくせえの」

「…」

「『彼女がくるみちゃんなら納得するけど』ってよく言われてたのもすげえめんどくさかったから、お前と付き合ってるって言えば周りも納得して静かになんだろ」



なるほどね…。



あたしと違って、ただ人と喋ると自然に猫かぶっちゃうだけで、別に周りからの評価とかはどうでもいいのか…。



「じゃあ…本当に良いの?」

「まあ今になって引けねえだろ」

「それもそうだね…」



そっか、じゃあこれからはあたしと神城は校内ではカップルの振りをしてなきゃいけないわけだ…。



神城のことは全然好きじゃないから超微妙だけど、さっきのピンチを救ってくれたのは、紛れもなく神城のあの言葉のおかげだ。
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