猫かぶりなカップル
「みんなのこと好きなんだもん。1人に絞るなんてもったいないでしょ?」



すごいなあ…。



三股を公認で実行するのもすごいし、三股を世間に隠せるのもすごい。



あたしなんてこんな狭い世界で偽るのですら、神城という性悪男にバレちゃったし。



色んな意味でそんな柚子ちゃんが大好きになった。



そのあと、神城のお父さんが帰ってきたので慌てて挨拶をしようとしたら、柚子ちゃんが「あたしの友達」と言って紹介してくれた。



友達…。



柚子ちゃんはあたしを見てニコッと笑う。



あたしの、初めて出来た本当の友達。



なんだかすごく嬉しくて、「また来てね-」と笑顔で手を振ってくれた柚子ちゃんに別れを告げ、ご機嫌で家に帰った。



「ただいまー」

「おかえりー!」



ドアを開けると、ママの明るい声が聞こえた。



ママもご機嫌らしい。



キッチンで何か作ってる。



「何作ってるの?」

「カレーをスパイスから作ろうと思って!」



ママは楽しそう。



ママがご機嫌だと家の中がぱっと明るくなってあたしも嬉しい。



ずっとこうならいいのにな。



ママが、あたしの腕の中にいるセイウチのぬいぐるみに気がついた。



「それ何? 可愛いじゃん」

「可愛いでしょー。セイウチだよ」

「あんた水族館とか好きだったっけ?」

「好きじゃないけど今日は楽しかった!」

「そっか、良かったね」



ぬいぐるみをベッドのところに置いた。



今日からこいつがあたしの寝るときの相棒だ。
< 32 / 92 >

この作品をシェア

pagetop