猫かぶりなカップル
『ごめーん! 今日、あたしちょっとデートでさ…。帰るの明日とかになっちゃうかもしれないんだけど、お金あとであげるからなんか適当にご飯食べてね』



そんな文面。



ママがデートなんて朝から知ってたよ…。



結婚をせず1人であたしを産み育てたママは、恋多き女で昔から彼氏をとっかえひっかえ。



こんなこともしょっちゅうあったので、1人でご飯なんて慣れたものだ。



寂しかったりもするけど、しょうがないことだもん。



誰もいない家で、ひたすら学校でバレたらどうしようと考え続け、結局解決策も思いつかないまま、翌日を迎えた。



学校行ったらみんなに軽蔑されてるかもしれない…。



ビクビクしながら登校する。



バレていませんように…。



重い足取りで校舎内に足を踏み入れる。



今のところ、あたしを羨望のまなざしで見る人はいるものの、軽蔑のまなざしを向けてくる人はいない。



大丈夫だったっぽい…。



ほっと胸をなで下ろし、靴箱の前で会ったスズナちゃんと教室までの廊下を歩く。



すると、廊下の先で神城がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。



ひいっ…。



内心バクバクしながら、何事もないように装ってすれ違う。



よかった、問題なさそうだ…。



やっぱあれ、別人だったのかな…。



と思った瞬間、神城はすれ違いざま、あたしに「昨日ぶりだね」と言った。



はっ…?



瞬間的にあたしの顔が青ざめる。



やっぱりあれ、神城だったんだ……。



スズナちゃんが不思議そうに「何のこと?」と言った。



やば…い…。



「昨日会ったの?」



スズナちゃんが聞く。



「なんのこ…」

「うん、ちょっとね」



『なんのこと?』と否定しようとしたあたしの言葉を遮って、神城がそう言った。



そしてあたしを見て、意味深そうに微笑む。



「杉谷さん、ちょっといい?」



神城がそう言って、あたしの耳元に口を寄せた。



何…言われるの…?



「昼休み話あるから、誰にもバレないように人気のいない校舎裏、来て」



神城の少しだけ低くて優しい綺麗な声が、悪魔の声に聞こえる。



怖すぎて耳の感覚がなくなりそう。
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