猫かぶりなカップル
「午後、早退するよな?」

「うん…」

「送ってく」

「えっ? 授業あるでしょ、いいよ…」

「また倒れても困るだろ」



過保護だ…。



タクシーで帰るのに…。



でも、熱のとき一人だと心細いから甘えちゃおうかな…。



今まで親にも誰にもほとんど甘えたことがない。



上手く甘えられないんだと思う…。



でも、熱のせいなのか、奏だからなのか、素直に受け入れてしまおうと思った。



「そんなずっと布団被ってて苦しくねえの?」

「苦しいよ…」

「とりあえず熱測れ」



奏がそう言って一度立ち上がって体温計を取ってから戻ってきた。



あたしの枕元に来る気配がする。



「あとでいい…」



あたしの声は奏によって無視される。



奏が片手をベッドについて、もう片方の手であたしの布団に手をかけた。



布団を被る手にぐっと力を入れたけど、風邪のあたしの力なんてたかが知れてる…。



簡単に、布団が奏の手によってめくられてしまった。



あたしはとっさに両手で顔を覆う。



「あんま見ないで~…」

「俺はお前のすっぴんも部屋着も泣き顔も全部見てんだよ。今更」

「風邪もうつしたくない…」

「うつしてみろよ」



奏がそう言って、あたしの手を強引に外した。



あたしの手を押さえつつ、奏があたしに顔を近づけて、そのまま濃厚なキスをした…。



「ごちそうさま」



熱…上がる…。



*
あたしの家のキッチンに奏が立ってる…。



暖かな匂いをさせて、卵のおかゆを作ってくれる奏。



ゆっくりとそれを全て食べたのを見た奏は、「もう寝ろ」とあたしに布団をかけた。



奏が帰っちゃう…。



思わず奏の腕を掴む。



「どうした?」



そう言う奏に、「一緒に寝よ…?」と小さくつぶやいた。



今日は、甘えるの。



奏が優しい顔でふっと笑った。



それからあたしの頭を軽く撫でる。



布団に入ってきた奏は、あたしを優しく包み込んだ。



安心したあたしは、気づいたら夢の中。



あたたかな、ふわふわとした熱の中の記憶。
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