食堂の白井さんとこじらせ御曹司
 髪の毛は一つに束ね、前髪はピンで横に分けて止めています。
 ノーメイクで、黒縁が目立つ大きな眼鏡をかけているのが私のいつもの定番スタイルです。
 料理に髪の毛が入るといけませんし、化粧の匂いで食欲がなくなる人がいるといけないのです。
 私服は、ジーパンにTシャツに黒い大きなリュック。
 まぁ、確かにこの私服姿では、年齢不詳ですね……。
 学食で一緒に働くおばちゃんたちが「白井ちゃんは若いから」っていうのがわからなくもない気がします。
 学生の身なりと変わりません。それも男子学生と……。
 チーフは、私がもう28歳だというのを知っているのでしょうか。
 よく見れば、眼尻に皺は出てきていますし、肌の艶ハリも年々失われているというのに。
 ……。
「気にしないのです!年相応です!」
 さ。
 さっさと学生相談室に用紙を出して帰りましょう。

「すいません、学生相談室ってどこですか?」
 通りすがりの学生に声をかけて、場所を尋ねました。
「え?まさか、相談しに行くの?」
 オシャレに力の入った女学生さんが、驚いた顔を見せ、それからなぜか私の服装を上から下までチェックした。
「あー、本気で相談組?」
 本気で相談組?
 本気じゃない相談もあるっていうことなのでしょうか?
「悪いことは言わない。玉の輿狙いじゃなくて、本気で相談するつもりならやめたほうがいい。友達に相談したほうがいいよ。なんなら、私が相談に乗ろうか?」
 玉の輿?
 友達に相談したほうがまし?
 ……学生相談室って、いったい何なのでしょう?
 一見チャラそうな髪の毛が茶色くてくりんくりんの女学生は、実は面倒見が良い子のようです。
 提出する書類を持っていくだけですと説明すると、学生相談室の近くまで道案内をしてくれました。
 あれ?そもそも私、学生ではないのですが……学生だと勘違いされました?学生相談室は学生の相談を受ける場所ですよね?
「ありがとうございます」
「うん、気にしないで。あ、そうだ、新入生?サークル決まった?よかったらはい」
 女学生さんが、カバンから1枚紙を取り出して私の手に持たせて去っていきました。
「……サークルの勧誘されてしまった」
 学生に間違えられたどころか、新入生に間違えられていたようです。
 二十八歳の春であります。
 おっと、のんびりしていられません。
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