セカンド・ファーストラブ
「なにがそんなに無理だって?」


教室の自分の席に座ってる俺の上に突如影が落ちる。見上げればクラスでも仲のいい近江(おうみ)がいた。


「…ああ、別になんでもないよ。独り言」

「伊澄がそんな顔してんの珍しいじゃん。てっきり進路で悩んでんのかと思ったわ」


なんでいきなり進路の話?と思えば自分の机の上には白紙の進路希望調査が置いたままだった。考え事をしていたから配られたことに気がついてなかったらしい。

進路、ね。


「悩みってかそもそも特にやりたいこともないし無難に国公立文系のとこ適当に書いとくかな」

「おー俺も。まじでこういうのダルいよな。将来のことなんかまともに考えてねぇよ。そこそこの大学行ってそこそこの会社に入れればいいやってくらいしか」

「近江らしいよ、その適当さ」

「伊澄だって似たような考えのくせに」


そう言いながら俺の前の席にどかりと腰を下ろす近江に、軽く笑って「まあ否定はできないけど」と言いながらも、胸の奥でこれでいいのかと燻る感情があった。やりたいことがない自分は薄っぺらい人間なのかもしれないと思う。だけど目標や夢の見つけ方がわからなかった。


席の持ち主が戻ってこないことをいいことに悠々と腰をかけている近江が教室の中央の方を見ながら「そういえばさ、」と切り出した。


「最近水篠綺麗になったよな」


その言葉にやっぱりか、って思ってしまった。
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