とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-
 数日後。大学内に設置された掲示板には、期待通りの結果が載っていた。だから聖は特に喜んだり安心したりはしなかった。

 放課後、迎えにきた俊介は聖の顔を見て笑っていた。聖が笑っていたからだろう。

「お祝いは何がいい?」

 いの一番に聞かれた。やはり専属執事をしているだけある。聖の成績がどうだったかなどお見通しなのだろう。

「クルージングとかホテル貸切じゃないならなんでもいいわ」

「執事の給料で買えるわけないだろ。まあ、今更お祝いするようなことでもないが……よかったな」

「やることが増えただけよ」

 一番で卒業するのは大変有難いことではあるが、面倒なことでもあった。誰もが二番でいいと思うようなことまでやらなければならないからだ。

 卒業式の答辞、OB会のリーダーとして当分の間学園とのやり取り、首席卒業者による在校生に向けた講義など────。

 学業と習い事と会社のことで自由時間すらない聖からしてみれば、そんな余計な時間が増えるのはありがた迷惑なだけだった。

 そして春からは社会人だ。本格的に会社を手伝うようになるため、今以上に忙殺されることは目に見えていた。

「聖ももう社会人か……早いな」

「ちっとも早くないわ。早く自由になりたいのに」

「もうちょっとの辛抱だよ。旦那様が隠居してくれれば少しは聖のやりたいようにできるさ」

「そんなの、何年かかるか分からないわよ。その頃には俊介も執事長になってる?」

「俺はまだまださ。宮松さんもいるしな」

「私が継いだら宮松を隠居させて俊介を執事長にするわ」

「そんでもってサボりまくるんだろ?」

「失礼ね! 今までの分休むだけよ」

「それをサボるっていうんだよ」

     
      
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