竜の末裔と生贄の花嫁〜辺境の城の恋人たち〜
二人は長椅子に移り、本を開いた。昨日の続きには、歴代の主な「末裔」の素性や「特徴」の様子、番に関わることなどが記録されていた。
「どうやらこの本を書き、例の手記を隠した人物は……ギュンター子爵家の先祖のようだな」
この著者は二冊の本を作り、一冊には王家の目に触れることを考慮し、いくらか手を加えた。これがギュンター子爵家に伝わる本だろう。そして「もう一冊には隠すことなくすべての事情を書き込み、例の手記と共に娘に託す」最後のページに、そのような書き込みがなされていた。
「つまり、著者の娘さんは……『花嫁』だったのですね」
「そういうことになるのだろうな」
「そしてここへ、この本を持って来たのですね」
そういえばアメリアが王都で会った子爵の母という人も、「花嫁」となるべく育ったと言っていた。あの秘密を司る家柄であるならば、もともと王家との縁は深いのだろう。
そう考えながらもう一度ページをめくったアメリアは、ふと歴代の竜たちの「特徴」についての記述が気になった。
最初の赤子のころは全身が鱗に覆われていたり、角や翼があったりと、人間離れした特徴が目立つ者もいたという。が、この本が書かれた(おそらく百数十年前と思われる)時代には、例えば鱗は片腕や背中だけなど、次第に範囲を狭めているようだった。
現在の竜ヴィルフリートに至っては、二の腕のさらにごく一部でしかない。明らかに「特徴」の出方が小さくなっている。
――もしも本当に呪いなのだとしても。……さすがに時代を経て、力が弱まっているのではないかしら。
それを言うと、ヴィルフリートも頷いた。
「そうかもしれない。なにしろ書かれたとおりだとしたら、すでに一千年を経ているのだからね」
「一千年もの長い間、残る想い……」
アメリアは思わず息を吐いた。それほど深い想いとは、いったい何なのだろう? まして相手は人間ではない。千年も前の竜の想いが、果たして自分たちに理解できるだろうか。
――いいえ、番ですもの。私とヴィル様だって、きっと同じだわ。
「……ヴィル様。エルナ様の竜は、何を望んでいらしたのでしょう」
「どうやらこの本を書き、例の手記を隠した人物は……ギュンター子爵家の先祖のようだな」
この著者は二冊の本を作り、一冊には王家の目に触れることを考慮し、いくらか手を加えた。これがギュンター子爵家に伝わる本だろう。そして「もう一冊には隠すことなくすべての事情を書き込み、例の手記と共に娘に託す」最後のページに、そのような書き込みがなされていた。
「つまり、著者の娘さんは……『花嫁』だったのですね」
「そういうことになるのだろうな」
「そしてここへ、この本を持って来たのですね」
そういえばアメリアが王都で会った子爵の母という人も、「花嫁」となるべく育ったと言っていた。あの秘密を司る家柄であるならば、もともと王家との縁は深いのだろう。
そう考えながらもう一度ページをめくったアメリアは、ふと歴代の竜たちの「特徴」についての記述が気になった。
最初の赤子のころは全身が鱗に覆われていたり、角や翼があったりと、人間離れした特徴が目立つ者もいたという。が、この本が書かれた(おそらく百数十年前と思われる)時代には、例えば鱗は片腕や背中だけなど、次第に範囲を狭めているようだった。
現在の竜ヴィルフリートに至っては、二の腕のさらにごく一部でしかない。明らかに「特徴」の出方が小さくなっている。
――もしも本当に呪いなのだとしても。……さすがに時代を経て、力が弱まっているのではないかしら。
それを言うと、ヴィルフリートも頷いた。
「そうかもしれない。なにしろ書かれたとおりだとしたら、すでに一千年を経ているのだからね」
「一千年もの長い間、残る想い……」
アメリアは思わず息を吐いた。それほど深い想いとは、いったい何なのだろう? まして相手は人間ではない。千年も前の竜の想いが、果たして自分たちに理解できるだろうか。
――いいえ、番ですもの。私とヴィル様だって、きっと同じだわ。
「……ヴィル様。エルナ様の竜は、何を望んでいらしたのでしょう」