今は秘書の時間ではありません
智己の家に着くと尚哉も来ていた。

「友永さんに断られたよ。俺とはもう働けないって。俺への忠誠はもうないし、信頼もない。うんざりだそうだ。」

「友永さんにそこまで言わせるなんて流石だな。」
と智己は小馬鹿にしたように言う。

「友永さんは本当に優秀なんだ。営業の補佐を2年していたから外部の対応は心得ているし、資料作成も分かっている。もともと学生の頃に秘書検定も取っていたから秘書業務に理解もある。そこに来て4年、前社長の元で秘書として鍛えられてきたんだから言うことはない。」

「あぁ…。」

「その友永さんをこの数ヶ月走り回らせ、無駄になるであろう資料をお前が会議で困らないよう先回りして作り、お姉ちゃんたちの尻拭いをさせてたんだ。いつまでこれをやらせるのか俺はお前の気持ちがわからなかった。友永さんを辞めさせたいのかと思っていた。」

「いや、辞めさせたいとは思ってなかった…つい…。」

「つい、ってなんだよ。彼女は胃薬飲み続けてたぞ。知らなかったのか。ご飯も食べられなくなってきて痩せてきてただろ。俺が見てもわかるくらいに。」

「いや…。うん…。そうだな。」

「なんだか歯切れの悪い返答だなぁ。なんなんだよ。」

「いや…つい。」
 
尚哉が口を挟んできた。
「お前友永さんをからかうと可愛いからちょっかい出してたんだろ。」

「いや…つい。」  

「お前小学生かよ!」
と智己にも呆れられる。

「そんなことしてるから逃げられたんだろ。このままだと月曜日からは確実に秘書でなくなるな。」

「そこまでいじめてはいない…はず。」

「でも信用も信頼もされてないって言われ、挙句もう無理って言われたんだろ。友永さんの手には追えないってお手上げされたんだろ。」

「あーらら。」

「知らないぞ。俺から見てもなかなか良い子だと思ったぞ。顔は可愛いのに仕事はできる、気配りできる。最高じゃないか。」

「分かってるから今日も謝りに行ってきた。けどカレー食べたら帰れって言われたんだ。」

「おい!カレー食べたってどう言うことだよ。上がり込んだのか??」
2人して驚いて前のめりに話しかけてくる。

「いや、まぁ。買い物からちょうど帰ってきた所で会ってさ。そしたらお腹が鳴っちゃって。で、ご馳走してくれたんだよ。キーマカレーもシーフードマリネ。めっちゃ美味しかった。」

「オイ!上がり込んで良いわけないだろ。そんなこともわからないのかよ。」

「マジで無神経だな。」

「なんでだよ。」

「昨日退職したいと言った秘書の家に上がり込んでご飯食べた?聞いたことないぞ。パワハラか?」

「最悪だな。」
< 30 / 108 >

この作品をシェア

pagetop