とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
 翌日、俊介は聖と本堂の結婚式に出掛けた。

 綾芽はまだ体調が悪いからと言って、俊介に結婚祝いの品を預けた。

 家に残す綾芽のことが気がかりだったが、俊介は綾芽の笑顔を見て、安心して家を出た。

 聖の結婚式は、藤宮家のご令嬢の結婚式とは思えないほどシンプルなものだった。

 聖は真っ白なドレスを着て、幸せそうに本堂の隣で笑っていた。それを見て、俊介は綾芽のことを思い出した。

 綾芽はドレスが似合うだろうか。それとも白無垢が似合うだろうか。彼女ならどちらも似合うかもしれない。どちらも見たいから両方着て欲しいと言ったら、綾芽は怒るかもしれないが。

 挙式は滞りなく終わり、小さな披露宴が始まった。

 会場に出席していたのは俊介以外、二人と親しくしている友人のごくわずかだけだった。本堂の母親はいたが、聖の両親はいない。呼んだが断られたと言っていた。親と確執がある分、なかなか溝は深く仲を取り戻すまでは時間がかかるのだろう。

 それでも聖は幸せそうだ。本堂と結婚して本当によかったと思っているのだろう。彼女は明らかに笑顔が増えた。

 俊介は仲人としてスピーチをした。二人の出会いの話から、いろいろあった騒動のことをジョークを交えて話した。会場から笑いやすすり泣く声が聞こえて、俊介は安心した。以前とは違う。ここには彼女の幸福を心から祝う人々が集まっているのだと。

 自分もいつかはそうなれるだろうか。綾芽の隣に立って、彼女を幸せにすることができるだろうか。

 綾芽に言った言葉に嘘はない。全て本当のことだ。
 
 聖に言われた、「俺が幸せにしたい!」と思うタイミングがあるとしたら、それは昨日だった。なにがなんでも、綾芽を幸せにしてやろうと思った。辛くても苦しくても、綾芽と一緒ならまた笑える日が来ると思えたのだ。

 


「俊介、今日は本当にありがとう」

 お色直しをした聖は、俊介のテーブルに挨拶しにきた。いつか母親の趣味の真っ赤なドレスを身に纏っていた彼女は、今日は可愛らしい淡い桃色の打ち掛けを羽織っていた。

「聖、本堂。おめでとう。これからも仲良くやるんだぞ」

「お前もな」

「ああ……大丈夫だ。綾芽さんは俺が幸せにするよ」

 二人は目をパチクリさせてお互いを見つめた。

「俊介がそう言うんだもの。期待してるわよ。結婚式は絶対招待して頂戴ね」

「当然だろ、仲人はお前らに頼むって決めてるからな」

「安心しとけ、最強に笑えるスピーチにしてやる」

「……お前の場合本当にやりそうだ」
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