とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
 翌日、俊介は昼休憩になったところでスマホを確認した。

 綾芽から返事がないので、不思議に思っていた。いつもなら朝には連絡をくれるのだが、一体どうしたのだろうか。仕事が忙しくて返事が滞っているのならいいのだが、過労になっていないかといろんなことが頭に浮かぶ。

「どうした。飯食い行かねえのか」

「いや……綾芽さんから連絡がなくてな」

「仕事で忙しいんじゃねえか」

「それならいいんだが……」

「気になるなら電話すりゃいいだろ」

「そうだな」

 電話の履歴から綾芽を探し、ボタンをプッシュする。プルルルル──と、コール音が鳴った。だが、しばらく待ってみたが音はなかなか途切れない。

「どうだ?」

 本堂が尋ねる。

「いや、駄目だ」

 仕方なく電話を切った。今の時間なら花屋で仕事をしているはずだ。休憩の時間は十二時前後だと言っていたから、まだ仕事しているだけかもしれない。

 花屋の忙しさはよく知らないが、繁忙期は徹夜することもあるそうだ。もしそうなら、電話などすべきではなかったかもしれない。

「もう少し待ってみる。十二月はかなり忙しいって言っってたからな」

「過保護な秘書様も成長したもんだな」

「うるさいな。俺だって学習するさ」

 本堂には言わなかったが、内心俊介は心配していた。綾芽はきっちりした性格だから、連絡をせずに放置することはほとんどない。以前のように大喧嘩したあとはともかく、普段の彼女は返事を待つ相手のことを考える。だから今まで特に気にしたことはなかったのだが────。

 ────今日辺り、家に寄ってみようか。
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