エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 いきなり現れるから誰かと思えば、おじさんだったので、ホッと安堵し胸を撫で下ろしつつ、いつものようにおじさんのさほど面白くもないジョーク混じりのトークに話半分。

 『あぁ』とか『うん』とか、適当な相槌を打ちながら、心はもう病院から抜け出して帰路へとついていて、我が家までもう数メートルというところで。

「あれー、今度は圭先生みーっけ。もしかして、圭先生も当直後に勉強してたのかなぁ? うちの専攻医はみんな勉強熱心だなぁ」

 おじさんのこれまた明るくて空気よりも軽い実に脳天気な声音が清潔感漂う院内のメインストリートに木霊した。

 正面でワイシャツにネクタイを締めてその上に白衣を着流しのように格好良く羽織っているつもりでいる、おじさんの視線を恐る恐る辿ってみる。

 そんなことしなくても、名前だってしっかり聞こえたし。

「あー、院長先生、お疲れ様です。まぁ、そんなとこです。さっきまで、樹《いつき》(院長の長男で脳外科医)先生の緊急オペの助手をさせて頂いてたので」

 背後に振り返ると同時に、あの男、窪塚圭の姿が視界に映し出されたのだから、逃れたくとも逃げる暇さえなかった。
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