君との恋の物語-Reverse-

3



基礎から固めていくやり方はどんどん成果として現れ、もともと学年20位以内にはいたが、おかげで1桁まで順位を上げられた。
うちの高校の場合、近隣の国立を目指すなら最低でも学年20位以内には入ってないと厳しいとされているので、それはもう問題ないことになる。
でも、まだまだ油断できない。
俺の場合は実技もあるし。
今年の冬休みは、休んでいる場合じゃない。
むしろ学校の授業がない分自分の苦手教科に沢山時間を充てられる。
ここでどこまで基礎を応用に持っていけるかだ。
この2週間が1番しんどかった。
部屋で勉強している以上昼も夜も関係ない。
練習だけは部活の時間内にしかできないので、夏休みの時と同じでそこを中心にするんだけど、あの時とはその前後の勉強量が違いすぎる(°_°)
睡眠時間は平均約4時間。
文字通り死ぬ気で頑張った。
こうして三学期を迎える頃には、必死になりすぎる必要はなく、生活のペースを整えながら入試の時間に自分のピークを持っていけるように調整していった。
この時期は学校へはほとんど行かなくなっているので、それでも平均9時間以上は勉強し、2時間以上は練習していた。
すると不思議なことに、入試への不安は少しずつ消えていって、後はいかに実力を発揮し切れるかということに考えが集中していく。
正直、ここまでやって落ちるなら、もう悔いはない。


さて、仕上げだ。その前に、と。
入試1週間前、卒業式の次の日から三日間だけ派遣バイトの予約をした。
もちろん、派遣どころかバイトも初めてだ。
スケジュール的にはちょっときついけど、ここまでやらないと計画が全部無意味になってしまう。
よし、予約できたみたいだ。頑張ろう。

そうして迎えた、入学試験当日。
この日に全てを賭けてきた。今夜はさぎりと電話の約束もある。
さぁ、思いっきりやろう。
全てはこの日のために。





手応えとして、かなり行けたと思う。
少なくとも筆記試験は全て問題なかったはず。
マークのズレがないかも綿密に確認するだけの時間も残った。
先にも述べた通り。これで落ちても悔いはない。
ただ、俺は国立一本だ。落ちたら確実に浪人することになる。
一応、後期の試験あるけど。

家に帰ったら、いつもより少し早い夕飯が用意されていた。
いつもの、なんてことないご飯だけど、まともに味わったのは随分久しぶりなように思えた。
決して高くはない肉を使った生姜焼きも、普通の白米も、質素な具の味噌汁も、今日は最高に美味しいと思った。
染み渡る。。そんな言葉が浮かんだ。






『どうだった?』
電話が繋がるとすぐに聞いた。
引っ張っても仕方ないし、さぎりならまず
「うん、手応えとして、結構よかった。ダメだったとしても、悔いはない。。かな?」
言うと思った。
控えめに言ってはいるが、これは結構自信があるんだと思う。もちろん。
『そっか。それならよかった!俺も、同じような手応えだった。本当、ダメだったとしても、悔いはない。』
俺もだ。
「よかった。」
久々に声を聞いてほっとしたのと、入試の手応えもよかったみたいでほっとしたので、なんだか気が抜けた。。
『さぎり。』
ストレートに、今浮かんだ言葉を。
「?ん?」

『会いたい。』
ずっと言いたかった言葉だ。
「私もだよ。」
よかった。ありがとう。














『あのさ』
「ねぇ」
また同時。
『また同時だったな』
いつも通りだ。
「うん。いつも通りだね!」

『ごめん、なんか、久しぶりすぎてちょっと緊張してたわ。』
入試のこともあったしな。
「んん、私も。」
さぎりもか。
『久しぶりだもんな。』
「うん、すごく」
『早速で悪いんだけど、買い物に付き合ってくれないかな?』
これも引っ張りすぎない方がいい。
卒業式までには済ませたい。
「いいけど、いつ?」
ここもストレートに。
『んー、なるべく早く。会いたいし』
きっと最短を教えてくれるだろう。
「最短だったら、明日でもいいよ?」
やっぱり。笑
今日の今日まで受験で必死だったんだから、予定もなにもないよな笑
『マジか!空いてるよ!』
『じゃぁ、明日にしよう!』
そう言って、その日の電話は早々に終わることにした。
明日会えるなら、無理することはない。
俺達は随分落ち着いていると思う。これは同世代の他のカップルにはない落ち着き方だと思う。
ただ、時々思う。
もし俺達の間柄がうまく行かなくなる時がくるとしたら。。
それはこの落ち着き方が原因になる気がする。。




待ち合わせの場所には、いつものように先に着いた。さぎりの姿を見つけて、まだ声を掛けるには遠いところだったので、右手を上げて挨拶した。

「おはよ」
『おはよう!急に付き合ってもらって悪いね』
久しぶり過ぎてかける言葉に迷った。笑
「んん、誘ってくれてありがとう」
いやいや、俺こそありがとう。
「なにか見たいものがあるの?」
『うん。ちょっと、香水をね』
だけじゃないけど。
「へぇ!香水。。」
久しぶりにさぎりの驚く顔を見た笑 
『意外だった?』
「いや、えっと、うん。どうしたの?」
まぁ、そう言う年頃だからな笑
『うーん、これから暖かくなるし、俺は、ちょっと汗をかきやすいからさ。大学生にもなって、スプレーっていうのも嫌だし。。』
スプレーとは、つまり制汗スプレーのことだ。
「なにか、あてはあるの?」
まぁ、さすがに一から探していたら1日じゃすまないからな。
『うん、ブルガリの、オムニアっていうシリーズがあって。それの、ガーネットか、パライバかな。。今のところ』
『初めて買ってつける香水だから、さぎりの意見も聞きたかったんだ。どちらを選んでも、これから、一番その匂いを感じるのはさぎりだから。』
卒業してからも一緒にいることを前提にしていることを含ませたんだけど、気付いたかな?
「そっか。ありがと。」
。。まぁいいか。早速お店へ。
「香水ってこんなに沢山あるんだね!この中からよく二種類にまで絞ったね!」
この日の為に何度か来てるからな笑
『まぁ、全部嗅いでみた訳じゃないけど、ブランドによって癖みたいなのはあるし、いいなと思う物を見つけたら、それに近いシリーズから更に絞ってみたんだ。』
これは本当だ。俺は特にブルガリが気に入っている。
「すごい。詳しいんだね。」
『もともと興味あったからね。さて、どっちがいいだろう?』
今のところ、ガーネットの方が優勢である。
でも、パライバも捨てがたいというか。。
「すごいね、どっちも本当にいい香り。。」
『でしょ?だから迷うんだよなぁ』
こういう時、さぎりはすごく良い意見を出してくれることが多い。
「んー、例えば、なんだけど、ガーネットの方が香りが柔らかくて春っぽいから、ひとまずガーネットにして、パライバはすっきりしてるし、、なんかちょっと砂浜っぽい香りがするから、夏になったらパライバに変えてみるとか!2種類持ってたら、気分でも変えられるし」
確かに!1種類に絞ることにこだわる必要はないな!
『確かに!そうだよね!なにも1種類しか持っちゃいけない訳じゃないし!うん、確かにガーネットの方が春っぽいもんな!OK。今日はこれをもらって行こう!』
パライバは、夏前にまた買いに来よう。
そして、今回忘れてはいけないのが。。
『ねぇ、さぎり?』
「ん?」
『これ、さぎりに似合うんじゃないかと思うんだよね。』
さぎりの香水も選ぶこと。
これは先に候補を探してあった。
ランバンのエクラ・ドゥ・アルページュである。この香りはなんというか、オムニアよりもさっぱりとしていて、よりナチュラルな感じだ。具体的に言うと、レモンや花の香りがよりストレートに感じられるんだ。
甘ったるくなくて、さぎりによく似合うと思う。
「すごい。。いい香り。。私の好みぴったりだね!」
それならよかった!
調査の甲斐ありだ笑
『でしょ!?だと思ったんだよね!』
自分のを選ぶよりもずっと難しかっただけに、気に入ってもらえてよかった。
「ありがとう!せっかく選んでくれたんだし、私もこれを買うね!」
『いいね!二人とも香水デビューだ!』
勉強の合間を縫って、じっくり用意したことが報われて、俺は自分が自然と笑顔になっているのを感じていた。
ありがとうさぎり。




さて、ここからが最後の難関だった。
どのようにしてさぎりを例の雑貨屋に導くか。。
そして、そのあとどのようにして指輪のケースに導くか。。

いや、やってみれば実は大したことではなかった。笑
さぎりは元々どこどこに行きたいとはっきりと言うようなタイプでもなければ、適当に歩いていても、どこに向かってるのかいちいち聞くようなタイプでもないのだ。
だから、簡単だ。目的地になんとなく歩いていけばいい。
飽くまで、なんとなくだ。

買ったばかりの香水を振って、いつものハーベストを歩いていると、それだけでかなり気分が違った。
大人になった気分だった。
せっかく香水も買ったんだし、なにかアクセサリーでも、と言って雑貨屋に来た。
ネックレスや、イヤリングもそこそこ見て、いよいよ目的の売り場だ。
それとなく手に取った指輪を、さぎりの右手小指につけてみる。小指を選んだのは、目的を悟られないためだ笑
『ピンキーリングっておしゃれでいいと思う!』これは本心だ。
さりげないところで指輪が光ると、それだけで魅力的だ。
といいながら、
『あ、でもこのくらい主張がしっかりしてる指輪なら、やっぱり薬指かなぁ?』
などと言いつつそれもつけてみる。今度は左手だ笑
思った通り。ぴったりだ。サイズは。。。8か。OK!!!
いきなり指輪を薦められて、さぎりはぽかんとしていたので、
『あぁ、ごめん、大学生になるからって、ちょっとはしゃぎすぎたな』と半分本音の照れ笑いで誤魔化し、売り場を後にした。
そもそもまだ大学生になれると決まった訳でもない笑


14時を過ぎ、そろそろ手持ち無沙汰になるなと思っていると、さぎりが家に誘ってくれた。
ありがたい。久々にゆっくり話したいもんな。
俺には、今日どうしても言っておかなきゃいけないこともあるし。



『卒業式の次の日から、バイトに出るんだ。』
部屋に案内されてすぐにそう切り出した。
「そう、なんだ?」
『うん、どうしても、欲しいものがあって。』
「そっか。。」
『でも、バイトばっかりにはしないから!今まで会えなかった分、いっぱい会おう!うまくバランス取るからさ!』
そんなに不安そうな顔をしないでくれ。
そもそも、欲しい物は二人のための物だ。
「うん、ありがとう」
寂しいだけの休みになんてさせないよ。
「恒星。。」
ん?
『ん?』
さぎり。。















少しの間、二人でぼーっとしてた。
まだ身体も顔も熱い。
けど、外が暗くなってきてる。
もうそんな時間か。
『そろそろ、行かなきゃかな』
明日も休みだけど、ずっとお邪魔してるわけにもいかないしな。
「送って行ってもいい?」
??珍しいな。
『え?いいけど、どうしたの?』
「もっと、一緒にいたいから」
そうが。ありがとう。
『うん、俺もだよ。』
せっかくなので、いつもの公園に行くことにした。
『もう、ここに来る事も少なくなるかな。』
ここは、初めて俺が本音をぶつけた場所でもあり、仲直りをした場所でもある。
「そうだね。ちょっと寂しいね」
『うん、でも、きっとまた新しい待ち合わせ場所とか、こうやって話す場所ができるよ。それに、ここが立ち入り禁止になる訳じゃないんだから、たまにはここに来よう!』
大切な場所には、いつ来っていい。
「うん、来ようね!」
長いようであっという間だった高校生活も後わずか。土日を挟んで月曜日はもう卒業式だ。
さぎりは、思い出したように言う。
「ねぇ、明日と明後日は、忙しい??」
俺もついこの間まで受験生だったんだ。さすがに予定はないよ笑
『いや、明後日は卒業式の準備をしたいから、ちょっと忙しいけど、明日は空いてるよ。』
つまり?
「ねぇ、明日も会えない?」
そう言ってくれると思っていた笑
『いいよ!明日は、家に来る?』
こんなこともあろうかと、いつでも掃除してある。
「いい。。の?」
『いいよ!なにか映画でも観ようよ!』
実は俺は映画好きだ。さぎりも、よく知らないと思うけど。
「うん!」
『OK!じゃ、10時に、駅前のレンタル屋で待ち合わせしよう』
ひとまず、計画の第一段階は成功した。
卒業式まではゆっくりしよう。
久々にこんなに一緒にいられるんだから。


ということで、その日も少し早いけど解散することにした。
何度も家まで送っていくと言われたんだけど、それは断った。キリがないからな。
それに、少し空を見上げてゆっくり歩きたいと言うのもあった。
高校生として過ごした3年間、その中心にはいつもさぎりがいた。
同じ部活の仲間や、クラスにも頼れる友達が沢山できた。そんな俺達も、ついに卒業し、多くの友達とは別々の学校に通うことになる。もちろん、さぎりとも。
このことを、ゆっくり一人で噛み締めていたかったんだ。

ちょっと切なくなりながら歩いていると、通りの反対側からなにやら見慣れたシルエットが歩いてきた。
ん?こんな時間に?
『肇!!』
俺が声を掛ける直前、向こうも気付いたようだった。
「お、恒星か!」
柳瀬肇と、東堂夏織だった。
『珍しいな。こんな時間に。』
俺の言葉に、今度は東堂が答える。
「うん、今日は1日一緒だったんだけど、もうすぐ卒業ねって話をしていたら、ちょっと名残惜しくて。。学校に行ってきたのよ。」
そうか。
『皆同じだよな。俺も、今日はさぎりと一緒だったけど、高校生活をゆっくり振り返りながら歩いていたところなんだ』
東堂の目は、少し潤んでいるようだった。
「恒星、お前のおかげで、俺達はいいパートナーになれた。ありがとう。本当に感謝している。」
『俺はなにもしてないよ。元々二人の相性がよかったからこうなったんだよ。』
真面目で義理堅い。肇らしいなと思った。
「いえ、私からもお礼を言わせて。私達は、二人ともあなたに感謝しているの。おかげで高校生活がこんなに楽しくなったわ。もちろん、その分寂しくもあるけど。」
やめろって、俺も潤む笑
『わかった。どうしいたしまして。これからも、仲良くな!』
「ありがとう」
「ありがとう」
3人で一緒に笑った。
本当に相性の良い2人だ。




「お邪魔します。」
ん?緊張してるのか?
あんまりジロジロ見られると俺も緊張するな笑
『どうぞ。適当に座って。』
「部屋、きれいだね」
掃除はサボらないからな。
『そうかな?ありがとう』
けど、褒められたらそれは素直に嬉しい。
『早速だけど、映画観る?』
気まずくなる前に先手を打った。
「う、うん、そうしよう!」
映画は、さっき一緒に選んできた。グレイテストショーマン。
この映画は公開した時からずっと気に入ってる映画だ。とにかく元気になりたい時に観る。
主演の俳優も好きだ。この俳優の映画は他にも何本か観ている。
やっぱりいい映画だった。ネガティブな要素が一切なくて、とてもすっきりしていた。

映画を見終わったらお昼を食べに出た。その間ずっと、これからのことを話し合っていた。
さぎりは、正直に「春休みの時間をなるべく一緒にいたい」と言ってくれた。
それは俺も同じだった。もちろん忙しくはなるが
『俺も同じ気持ちだよ。だから、なるべく休みを合わせたり、バイトに出る時間を合わせるようにしよう』
と約束した。

「恒星は、どこでバイトするの?」
あぁ、実は
『ん?あぁ、卒業式の次の日から、3日間派遣のバイトに行くことが決まってるだけで、まだメインにするバイトは決めてないんだ』
今回は時間も限られていたし、すぐにでもお金が必要だったからな。
「そうなんだ。メインのところは、どうするの?」
これにも考えがあった。
『うーん、今のところはホームセンターがいいかなと思ってる。』
宛もある。
「ハーベストに入ってるとこ?」
『うん、受かればだけど。俺は結構DIYとか興味あるし、工具とかも好きだから。』
これはずいぶん前から考えていたことだった。どうせ働くなら、自分が興味ある分野にしたほうがいい。
「確かに、恒星にあってるかもね!受かるといいね。」
ありがとう。そういえば
『ありがとう!さぎりはどうするんだ?』
さぎりもバイトを始めたいと言っていた。
「まだあんまり考えてないんだ。」
それなら
「あ、でも、ファミレスとかいいかもって思ってる。」
『ファミレスか!いいかもね』
提案しようと思っていたことだ。さぎりの愛想の良さが活かせると思うし、居酒屋よりは嫌な客も少ないだろう。
『あぁ、そうだ、それとさ』
「ん?」
『12日だけは、一日空けておいてほしいんだ』
さぎりなら覚えていてくれるだろう。
「うん、その日で、ちょうど二年だもんね」
やっぱり!さすがだ。
『うん。都内まで、いかない?』
「うん、いいよ。」
『もしよかったら、その日の予定は俺に決めさせてくれないかな?』
コースは既に決まっている。よし、準備は整った。



高校の卒業式だけはさすがに泣いた。
この体育館も、教室も、音楽室も、思い出がありすぎる。
東堂、肇、前田、厨二、クラスの皆、部活の友達、後輩達、そしてさぎり。
くだらないことから大事なことまで、皆に教えてもらって、一緒に学んだ。
ありがとう。絶対忘れないよ。



< 12 / 16 >

この作品をシェア

pagetop