交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
「どうかお願いします」

 長瀬さんは私から視線を外そうとしなかった。まさに会社同士の契約交渉の場にでもいるみたいに粛々と、しかし揺るがぬ意志をもって、ことを運ぼうとしている。

「でも、私は」

 私は掠れた声で最後の反撃を試みた。

(ありえないから!)

 契約だかなんだか知らないが、絶対に頷くつもりはなかった。圭介さんとの結婚だって考えに考えた末に決めたのだから。

「私はあなたのこと、何も知りません。会ったばかりだし……そんな人と結婚なんて無理に決まっているでしょ?」

 すると長瀬さんは椅子から立ち上がり、真顔になって背筋を伸ばした。

「失礼、みずほさん。俺は決して怪しい者ではありません。申し遅れましたが、勤務先は長瀬リアルエステート。この春、副社長に就任いたします」
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