交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
不測の展開
 それから数十分後、私は長瀬さんの家の前に立った。だがインターフォンを押そうとしても、なかなか踏ん切りがつかない。

「大丈夫よ、みずほ。何かあっても、私たちがついているから」

 よほど強ばった顔をしていたのだろう。隣にいる由貴が励ますように声をかけてくれた。
  
「ありがとう、由貴」
「でも何かなんて起こんないだろ。あの人、問題ありそうなタイプに見えなかったし、きっとすんなり荷物を返してくれるって」

 すかさずタカくんもフォローしてくれたが、私は黙っていた。

「お、何だよ。スルーかよ」

 唇を尖らせるタカくんの肩を、由貴が「まあまあ」となだめるように叩く。

(だって……キスされたもの)

 そう、「何か」はあったのだ。しかし、そのことは由貴にしか話していない。そしてそれが私のファーストキスであることも。

 確かに結婚式でも誓いのキスをしたけれど、あれはただのふりで、実際には唇を合わせてはいなかった。これまで恋人がいたこともなかったし、私にとっては長瀬さんとのキスが正真正銘初めてだったのだ。

 今朝ここを飛び出してから、私は公衆電話で由貴に連絡し、これからどうしたらいいかを相談した。買い物に行こうと思っていたので、たまたま財布と鍵は持っていたのだ。

 しかしスマートフォンはもちろん、他の荷物はすべて置いてきてしまった。気まず過ぎて戻りたくなかったが、そのままというわけにはいかない。

「やっぱり取りに行くしかないよね。ちょっと待ってて。これからタカくんと一緒に、そっちに行くから。マンションの近くにコンビニがあるんでしょ? だったら、みずほはそこにいて」
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