交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
不用意な一夜
 いったいどれくらいそうしていただろう? 

 やがて私は立っていることに疲れ、キングサイズのベッドの端に腰を下ろした。
 朝からいろいろあり過ぎてゲンナリしていたし、食事もまだだから、おなかも空いている。それでも長瀬さんの手を握り続けていた。

(絶対どうかしている)

 自覚はあっても、冷静な対応ができない。長瀬さんは眠っているから、手を離して、この部屋を出ていってもかまわないはずなのに、踏ん切りがつかなかった。

 眠りに落ちる前の心細そうな視線と、手を握った後のうれしそうな笑顔――あんな長瀬さんを見てしまったのだ。しかも今は安心しきった表情で、無防備に寝入っている。

 なぜかはわからないけれど、私は彼に信頼されているらしく、それがうれしかった。
 さらにはどういうわけか私自身も、長瀬さんの寝顔を見ていると、妙に気持ちが落ち着く。
 だから彼の手を離せなかった。まるで彼に惹かれているみたいに。

(やっぱり雰囲気……ちょっと佐藤さんみたい)

 私は似ても似つかぬ相手を思い出し、こっそり苦笑した。

 インターシップの時に少し関わっただけで、もう二度と会えないかもしれない佐藤さん――私はたぶん彼が好きだったのだろう。

 そして私を好きだと言いながら、実は初恋の相手を引きずっているらしい長瀬さん――おそらく彼のことも好きになり始めている。

(どうかしてる……本当に)

 私は盛大なため息をついて、長瀬さんの寝顔を見やった。
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