愛され、囲われ、堕ちていく
「いねーよ」
「あ?」
「俺のチームに、裏切り者なんかいねーよ」
伊織が、静かに言った。

「強がんなよ…!伊織~」
「気安く俺の名前呼ぶなよ!
てか、この俺が知らないとでも思ってんのかよ!
武将崩れ!」
「は?」
「そこのお前だよ!よくもまぁ…裏切ってくれたよな!」
「え……伊織…?それって…嘘……」
伊織の言葉に一番驚いたているのは、凪沙だった。

伊織の視線の先にいたのは━━━━━━
“多重”だった。

「しかも…凪のことを裏切るなんて……いい度胸してら…!」
「え?私……」
「まさか、多重が?伊織、冗談やめてよ!」
「だって、お前の彼氏ってそこの武将崩れだろ?」
「え?」
「このチームは“俺が”信用できる人間しかいねぇんだよ!
ここに来る奴のこと、調べるに決まってる」
伊織は至って冷静だった。
煙草を咥えてただまっすぐ、多重を見ていた。

「………ごめんなさい!
私、一政くんの力になりたくて……」
「多重…」
凪沙は何も言えなかった。
好きな人の力になりたいという気持ちはよくわかるから。
「多重…今日は帰って」
「え?凪沙?」
「今はまだ誰も傷ついてない。だから、このまま…争っていないまま、みんなを連れて帰って!」
「そうね!それがいいわ!
多重が責任もって、ここのみんなを連れて帰って!」
紅音も賛同して、多重に言った。

「それは…」
「私はもう…誰も傷つくのを見たくないの……!」
凪沙が多重の元に行き、懇願する。

「一政くん、無理だよ。伊織くん怒らせても何もいいことないよ!
帰ろうよ!」
「は?今更…退けねぇだろ…!?
だって━━━━━━」

「は━━━━!!
凪!!!」
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