愛され、囲われ、堕ちていく
「紅音、凪ちゃん!
こっち!」
臣平が二人を呼び、建物の外に出した。

「いい?
絶対にここから出るなよ!」
臣平の車の中に押し込まれ、臣平の部下達が車の周りを取り囲んだ。
「お前等、二人を頼む!」
「はい!」

臣平が建物に戻ると、もう既に何人かは死んでいた。

「伊織!!もう、やめろ!
凪ちゃんが待ってるぞ!
お前はまた……裕隆の時みたいに殺すのか!?」
「伊織!!もう…これ以上、凪沙を悲しませるな!」
臣平や、敬太が必死で呼びかける。

「だったら……選択肢をやる」
「え…?」
「浅野」
「………」
「お前か、その女…どちらかを殺らせろ!」
「え……?」
「そしたら、もう終わりにする」
「そんな……」
「浅野、お前が決めろや!」

「………俺を殺れ…」
「え?一政くん…!」
「伊織!!殺れよ!」
迷いのない、一政の目。
「フッ…
じゃあ…遠慮なく……」

「伊織!!?」

「━━━━━え?」
一政の目の前で、拳を止めた。
「約束しろ……
もう二度と俺達の前に……特に凪の前に現れるな!
わかったら、早く消えろ……!」
そう言って、ソファーに座り直した伊織だった。

「臣平、あと頼んでいい?」
伊織はソファーで煙草を咥え火をつけて、天井に一度吹いて臣平に言った。
「あぁ…凪ちゃんとこに行ってやれ!」
「サンキュ」

車内では、凪沙が紅音と手を繋ぎ震えていた。
ドアが開く音がする。
凪沙は、固く目を閉じていて誰が開けたかわからない。
「凪」
聞こえてきたのは、優しいいつもの伊織の呼びかけだった。


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