今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「お気になさらないでください。
もうあれから10年ですか。
千桜さまと奥様は本当の親子になられているんですね」


しみじみそう言った矢代さんはとても嬉しそうで、まるで親戚の優しいおじさんみたいだと思った。


矢代さんはこの10年、私たち家族のことを影で見守ってくれていたのだろう。


伊集院家の執事としては微妙な立場なんだろうけど、それでも兄や母を大切に思ってくれているのはよくわかる。


すると母が兄のスポーツバッグを抱えて階段を降りてきた。


「ごめんね、チーちゃん」


階段下まで降りてきた母は私の肩にそっと手を置いて小さく笑う。


「チーちゃんにまで心配かけてしまって」


「ううん、私はいいよ。でもこんなの初めてだしお母さんはそれでいいのかなって思って」


「ありがとう、でも大丈夫よ。
翔の決めたことだから、私はそれを尊重してあげたいの」


「……そっか」


やっぱり私ってなんにもわかっていない子どもなのかもしれない。


母の強さを感じたような気がして、たくましいと思った。

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