あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
先週の土曜日。
お忍び工場見学を達成したアキに何だかんだと文句をつけつつも、買って来てくれた肉まんを食べた夜。
『ビール克服の糸口が見えたかも』というアキに、わたしは即座に食いついた。
彼の『ビール克服』に真剣に取り組もうと、新たに決意した矢先だった。
『どうしたらいい?どうやったら克服出来そうなの!?』
前のめりになってそう訊ねたわたしに、アキは言った。
『静さん越しのビールなら美味しく感じる』
『試しに静さんの口から飲んでみたい』
―――と。
『いい?』と小首を傾げたアキに、すぐさま『断固拒否!いいわけない!』と言おうとしたのに、なぜか最後の言葉を呑み込んだ。
わたしを真っ直ぐに見つめる彼の瞳が、これまでにないくらい真剣なもので、そこに揺るぎない決意を感じたせいだ。
力になってあげたい。―――そう思ってしまった。
だけど同時にもうひとつの声がした。
『これ以上過度なスキンシップをして、もし万が一彼のことを好きになったらどうするの!?』
そんなの絶対無理。失恋確定案件に手を出すなんてありえない。
本当だったら、こうしてここにいるはずのない、雲の上の住人なのだ、『当麻聡臣』という男は。しかも、『そばに居られなくても永遠に大事』だとハッキリ宣言出来るほどに想う相手がいる。
そんな相手とどうこうなろうと思えるほど、わたしのメンタルは頑丈に出来ていない。
過去の痛手でズタボロになった心を、三年の月日をかけてなんとか繋ぎ合わせてきたのだ。それが再び崩れ落ちたら、わたしはいったいどうなってしまうんだろう―――。