あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
(―――好きな相手……!?)

頭に浮かんだ言葉に気付いた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。胸の奥がどうしようもなく切なく疼いて苦しくなる。

ああそうか。わたし、やっぱりアキのこと――――。


「静さん。どうかしたの?」

すぐそばからそう問われたけれど、どうしてもそちらを向くことは出来なくて、ただひとこと「おだてても奢るのは一杯だけよ」と唸るように言うのが精いっぱい。

わたしが自分の中のどうしても認めたくない気持ちと闘っていることなんて知りもしないアキは、「あははっ」と楽しそうな声を上げた。

「ありがとう、静さん。でも気持ちだけ貰っとくよ。これも『褒賞』の一部だと思っていいから」

垂れ気味の二重まぶたを甘く細めて、大人の男の余裕すら感じさせる微笑みを浮かべる。


ずるい!

ずるいずるいずるいっ!


そんな綺麗で可愛くてセクシーな顔でわたしを見ないで。
優しくてずるくて腹黒くて真面目で―――知れば知るほどその魅力に絡め取られていく。抵抗するほど埋まっていく底なし沼みたいに、いつの間にか引き返せないところまで、気持ちが引き込まれていたんだ。

もし今彼が『これから部屋に』って言ったら、堪らず頷いてしまいそう。


ああ、やっぱり。

わたし―――


彼のことが好きなんだ。





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