あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
『じゃあビールベースのカクテルはどう?』
メジャーなところだとトマトジュースで割った“レッドアイ”やジンジャーエールで割った“シャンディガフ”が人気。
それならビールの苦みも気にならないかも、と思ったけど、彼は試してみたことがあると言う。
何かで割って苦みが薄まれば飲めるけれど、でも“割らないと飲めない”まま。
どうしたもんかと唸るわたしに、彼は情けなさそうに眉を下げ、『本当はお酒よりも甘い物の方が好きなんだ』と言ったのだ。
その瞬間、パッと閃いたのだ。
『“アイスフロート”にしよう!』―――と。
ちょうど自宅の冷凍庫に“ジンジャーエール味”のカップアイスが入っていた。
あれをビールに浮かべれば、ジンジャーエールで割らなくても“シャンディガフ風”になるはず。
ビールを飲んで『苦い!』となったら、すかさずアイスを口に入れたらいいんじゃない?
ものすごく良い案が浮かんだと一瞬で浮き立ったわたしは、彼の腕を掴むと『行くわよっ!』と立ち上がった。
そして訳が分からず戸惑う彼を強引に店から連れ出し、そのまま自宅へ引っ張り込んだのだ。
(それがどうしてあんなことになったんだろう……)
今日一日、仕事の合間に何度も頭の中で自問自答したけれど、答えは見つからないまま。
あの時の自分は確かに酔っぱらっていた。うん、それは認める。
けど。
たかがビールを四、五杯飲んだくらいで前後不覚になるようなやわな体じゃない。しかもその日は焼酎や日本酒には手を出さなかったから、記憶が飛んだりするはずもない。
ふわふわとほろ酔い気分に毛が生えた程度だったはずなのに、どうして自宅に見ず知らずの初対面の男の子を連れ込んだりなんてしたんだろう。
“男の子”だから安心していたのかもしれない。こんな年上のわたしを、“その対象”にするはずなんかないって。
それなのに―――。