あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「んん、」

くすぐったさに身を捩ると、今度は首元を舐められる。

「ハルぅ、もうちょっとだけ待って……」

実家に帰ったわたしが朝寝坊をしていると、彼はいつもわたしを起こしに来る。そしてこんなふうに、「おなかすいたよ」「はやくおきて」と訴えてくるのだ。

(連休明けのお仕事……だるいなぁ……)

体が“出勤モード”に切り替わらない。久々の三連休を謳歌しすぎたのかも。スマホのアラームはまだ鳴ってないから、もう少し寝てられるはず。

まぶたを閉じたまま頭の中だけでアレコレと考える。そうしている間にも、頬や額にもぴたぴた(・・・・)と柔らかな感触が押し当てられて、くすぐったさに目を閉じたまま顔をそむけた。

「んん~ハル~、ご飯はお母さんから貰って……」

あれ?……お母さん?

わたし、いつから実家に帰ってた?いや、でも今自分で出勤だって―――。

「実家じゃなかった!」

言いながら目をパチッと見開く。
と同時に、首筋にチリっと痛みが走った。

「いっ、」

軽い痛みに顔をしかめると同時に、首元で「ちゅうっ」と立つ音。
開いたばかりの目に映ったのは、細くて柔らかな波打つ毛並み。
けれどそれは、頭の中にあったグレーのものではなくて―――。

ダークブラウンのゆるく波打つそれがゆっくりと動き、その向こう側と目が合った。

くっきりとした二重まぶたに縁取られた、目尻にむけて下がる瞳。右下の小さな泣きぼくろ。

至近距離なのにシミも隈もひとつも見当たらない、きめ細やかな白い肌を持つビスクドールのようなその男は、気だるげな色香の漂う瞳を細め、わたしを見下ろしながらにっこりと綺麗な笑みを浮かべた。

そして「あ、」と声を発した次の瞬間、唇が塞がれた。
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